その人には、腕時計をして走るという習慣がない。
明けても暮れても陸上競技の青春だった。
1500mならば3分48秒、
5000mならば14分28秒が自己ベスト記録だ。
高校時代には全国駅伝で都大路を走った。
大学時代の正月は毎年箱根駅伝を走った。
並み居るライバルたちに勝つか、負けるか?
記録を更新するか、途中でつぶれて棄権するか?
そんな世界でずっと勝負してきた。
その人にとっての「走る」とは、
「やるか、やられるか」
「生きるか、死ぬか」の戦いだった。
生死の狭間で時計とにらめっこしているヒマなどない。
だからその人は、走るときに腕時計をしたことがない。
マラソン・ランニングに挑戦するみなさんを勝手にワイワイ応援ブログ
「Are You Ready?2015-2016」
第26回目は、元箱根駅伝ランナーTさんのご登場です。
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初めてフルマラソンに挑戦した時も、
Tさんの腕に時計はなかった。
3時間を切るのは当然のことだと決めていたが、
それ以上の明確なタイム設定はなかった。
いけるところまでいってやる――。
決めていたのはそれだけだった。
スピードの感覚はカラダが覚えている。
そのレースは走れすぎるほど走れた。
後半の折返しでタイムが気になった。
横で走っていたランナーに聞いてみた。
「このままのペースでいくと、
どれくらいのタイムでゴールできますかね?」
そのランナーは驚いたにちがいない。
レース中にそんな質問をされることは、
これまでもこれからも2度とないだろう。
それでも、息を切らしてこたえてくれた。
「に、2時間40分、くらいだと思います」
よし、このまま突っ込んでやる――。
Tさんはペースを落とさずに走りつづけた。
そして、ぶっつぶれた。
35km地点で足はパッタリと止まってしまった。
残りの7kmは
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